スモールビジネスを経営する上で会計の基本についても知っておきたいけれど、損益分岐点の意味がよくわからず困っているという人はいませんか?
この記事では、損益分岐点の求め方から経営上役に立つ活用方法まで詳しく解説します。
損益分岐点とは?
損益分岐点とは会計用語の1つで、利益も損失も発生しない赤字と黒字の分岐点のことです。
黒字と赤字の境界が損益分岐点のため、どのくらいの売上があれば黒字経営ができるのかを把握でき、目標設定にも役立ちます。
損益分岐点には次の2種類があります。
損益分岐点の種類 | 概要 | 使い方の例 |
損益分岐点売上高 | ・売上高をベースに考える損益分岐点 | ・会社を黒字にするためにはどれだけ売上を上げればよいか考える時に使う |
損益分岐点販売量 | ・商品やサービスの販売数量をベースに考える損益分岐点 | ・ある商品やサービスの販売をやめるか継続するか検討する時に使う |
スモールビジネスを経営する上では、今後の経営戦略を考える上で重要な指標となるでしょう。
損益分岐点の計算方法
損益分岐点は利益(計算式で表すと売上ー費用)が0となる、売上=費用となる点のことを指します。
費用には次の2種類があります。
費用の種類 | 概要 |
固定費 | ・売上に関係なく一定期間に一定額発生する費用 |
変動費 | ・売上に合わせて増加する費用 |
また損益分岐点には、損益分岐点売上高と損益分岐点販売量の2種類があり、それぞれの計算方法は次の通りです。
損益分岐点売上高=固定費÷{1ー(変動費÷売上高)}
損益分岐点販売量=固定費÷1単位あたりの限界利益
限界利益とは会計における利益の考え方の1つで、売上高ー変動費の計算式で求めることができます。
この場合の「限界」という言葉は「境界」という意味で使われているため注意しましょう。
上記の計算式から、損益分岐点販売量とは固定費を回収するための限界利益を得るのに必要な販売数量を示す指標とも言えるのがわかります。
損益分岐点のスモールビジネスにおける活用の現状
2021年に中小企業庁が発表した中小企業白書で、損益分岐点売上高を計算しているかどうかを中小企業に対してたずねてみた所、次のような結果が出ました。
計算している | 計算していない | |
損益分岐点売上高 | 77.2% | 22.8% |
このことからスモールビジネスを運営している人のうち7割以上の人が損益分岐点について理解し、損益分岐点売上高を計算して自社の戦略に役立てているのがわかります。
また中小企業白書では、業種別に見た損益分岐点比率の分布も公表されています。
損益分岐点比率とは損益分岐点売上高÷売上高で求められ、実際の売上高に対して損益分岐点売上高がどのくらいの割合になっているのかがわかる指標です。
60%未満 | 60%以上70%未満 | 70%以上80%未満 | 80%以上90%未満 | 90%以上95%未満 | 95%以上100%未満 | 100%以上 | ||
製造業 | (n=19,060) | 22.6% | 7.9% | 11.1% | 16.7% | 10.5% | 11.4% | 19.9% |
建設業 | (n=114,850) | 14.5% | 8.3% | 11.5% | 15.5% | 9.8% | 12.1% | 28.3% |
情報通信業 | (n=3,014) | 20.6% | 5.7% | 7.7% | 15.3% | 14.2% | 20.5% | 16.1% |
運輸業・郵便業 | (n=4,347) | 17.2% | 6.6% | 8.2% | 12.9% | 12.0% | 17.8% | 25.3% |
卸売業 | (n=17,320) | 21.6% | 7.5% | 12.7% | 17.7% | 10.5% | 11.8% | 18.2% |
小売業 | (n=6,167) | 13.4% | 5.1% | 9.2% | 16.9% | 11.9% | 14.5% | 29.0% |
宿泊業 | (n=323) | 16.1% | 6.8% | 12.4% | 15.5% | 9.0% | 11.1% | 29.1% |
飲食サービス業 | (n=761) | 9.2% | 4.1% | 6.8% | 16.3% | 14.5% | 20.8% | 28.4% |
生活関連サービス業 | (n=540) | 14.6% | 4.6% | 8.3% | 15.4% | 11.9% | 17.4% | 27.8% |
娯楽業 | (n=486) | 18.1% | 6.4% | 11.5% | 15.0% | 11.1% | 12.8% | 25.1% |
損益分岐点比率が100%以上で赤字を出している企業が多い業種もあれば、90%未満の企業が半数を超えていて赤字に転落しにくい企業が多数を占める業種もあります。
このことから損益分岐点を理解し損益分岐点比率を求めると、競合他社と比較して自社の財務基盤や収益構造がどのような状態にあるのかを把握できるのがわかります。
損益分岐点をスモールビジネスで活用するメリット
損益分岐点をスモールビジネスで活用するメリットを3つご紹介します。
実現可能な売上目標を立てられる
2021年に中小企業庁が発表した中小企業白書では、社長が損益分岐点を活用し根拠のある目標を設定したことで、経営を立て直した事例が紹介されています。
3PL事業を主に展開する中小企業の株式会社ミズ・バラエティーでは、携帯ストラップのヒットで2007年には売上を21億円に伸ばしたものの、スマホの普及とリーマンショックで売上が急落したのです。
この時社長は根拠のない15%増、20%増といった営業ノルマを従業員に課していましたが、銀行借り入れもできなくなったため経営者向けの勉強会に入塾し、会計と財務を学びました。
そして社長は不況による困難を乗り越えるには無理なノルマではなく、財務指標に基づいた根拠のある数値目標を社内に示すことで、従業員との信頼関係やモチベーションを維持するのが望ましいと考え直したのです。
具体的にはパートで働く従業員には1時間当たりのこん包個数、営業職には案件ごとの利益率、経営陣には損益分岐点や部門別損益と、立場に合わせたわかりやすくて意味のある数値で目標を設定しました。
この改革により株式会社ミズ・バラエティーは売上高が3割落ちても赤字に転落しない収益構造に変わったため、コロナ禍でも赤字になることはなかったのです。
損益分岐点を活用し、実現可能な売上目標を立てることで企業を赤字体質から黒字体質に変化させられるのは大きなメリットだと言えるでしょう。
参考:中小企業庁「2021年版 中小企業白書 事例2-1-1:株式会社ミズ・バラエティー」
他の財務指標と合わせてどうすれば利益が増えるかを考えられる
損益分岐点は利益が発生するポイントなので、他の財務指標とも合わせてどうすれば利益が増やせるかを考えることができます。
スモールビジネスにおいては利益志向で経営を行うのが大切なので、損益分岐点を把握すると、利益を確保するためにはコストを削減すればよいのか、それとも売上を上げればよいのかといった戦略が考えやすくなるのです。
将来の見通しが立てやすくなる
継続的に損益分岐点の推移を把握すると、株式会社ミズ・バラエティーの事例でもご紹介した通り、損失が予想される状態でもどのくらいの売上高減少までは赤字転落しないかを算出できるため、将来の見通しが立てやすくなります。
赤字が予想される状況になっても早めに対策を講じられるため、損失を最大限小さくできるでしょう。
損益分岐点のスモールビジネスにおける活用方法
損益分岐点のスモールビジネスにおける活用方法を3つご紹介します。
利益を改善する
損益分岐点を活用して利益を改善する方法と具体例は次の通りです。
利益の改善方法 | 具体例 |
固定費を減らし損益分岐点を下げる | ・事務所の家賃を見直す ・加入している保険を見直す ・人件費を見直す ・通信費を見直す ・広告宣伝費を見直す |
変動費を減らし損益分岐点を下げる | ・仕入単価を見直す ・加工費を見直す ・光熱費を見直す ・在庫を減らす ・販売方法を見直す |
売上を伸ばし損益分岐点を下げる | ・商品やサービスの値上げを行う ・新規顧客開拓を行う ・既存顧客のリピートを促進する |
損益分岐点という根拠を用いることで、実現性の高い利益改善策を講じることができるでしょう。
事業のリスクを区別するのに用いる
損益分岐点売上高が低いほど、その事業が赤字になる可能性は低くなります。
そのため、事業単位で損益分岐点売上高を計算しておくと、自社の事業のうちどれが赤字になるリスクが高いのかをあらかじめ把握できるのです。
赤字になるリスクの高い事業、低い事業それぞれに戦略を立てることで、例えば「リスクの高い事業から撤退する」「リスクの低い事業をより拡大する」といった意思決定が素早くできるでしょう。
どこまで割引してよいかを判断する
例えばある事業で在庫を多く抱えた場合、それを保管するための経費が継続的にかかりますが、割引して販売した場合赤字が出てしまう可能性もあります。
この時損益分岐点を使って収支が0になる割引額を計算してから販売すれば、在庫分の販売をしても大きな赤字になるのを防ぐことができるでしょう。
株式会社KAKERUではスモールビジネスにおける損益分岐点の適切な活用方法をご提案しています
株式会社KAKERUでは、スモールビジネスにおける損益分岐点を分析し、お客様にとって適切な経営戦略をご提案しています。
前の項目でご紹介した内容や事例は一般的な内容のため、自社の財務改善のための活用となるとイメージがわかないという方も多いでしょう。
株式会社KAKERUでは「よろずや相談」という窓口で、スモールビジネスにおける日々のお悩みごとをお聴きし、解決に導くサービスを行っております。
損益分岐点を用いて根拠のある財務改善を行いたい方は、次のページもご覧ください。
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まとめ
損益分岐点とは利益も損失も発生しない赤字と黒字の分岐点を指しますが、スモールビジネスでは継続的に計算し、自社の戦略に役立てるのが望ましいでしょう。
この記事も参考にして、ぜひ損益分岐点について理解を深めてみてください。